以前、まだ電話ができたころ、と言っても去年の話。
テレビを見ていてほしくなったのであろう、父がマッサージチェアを注文したと言う。
会社から帰ると、母親が言ってた。一人でいるときに電話してたらしい。
２〜３日で届く、と。
果たして、届いた。
廊下に大きな箱が置いてあった。
父が組み立てはこっちですると言ったのかどうかはわからないが、ただ箱に入っている状態。
運送屋が組み立てをほっぽいたのかもしれない。
もともと組み立ては料金に含まれていなかったのかもしれない。
メーカーは「スライヴ」。１０万円した、と母は言ってる。
晩飯後、組み立てた。
そして父に座らせてみる。
作動させると、｢痛い｣と言う。
そして、立てない。座ったはいいが、立てないのだ。
母親が買い物や野良作業でいない時に父が一人でこのチェアに座って、立てないで困っている状況を想像する。
「ほら、立てないでしょ？ 使えないって｣
母は父にチェアの使用をあきらめさせた。
それはいいが、これをどこに置こう。父はまだ家の中を歩ける。一人のときに勝手に使おうとするかもしれない。
かといって俺も母と二人でこのチェアを家のあっちこっちと簡単に運べる重さではない。
妙案が湧いた。
ひっくり返して置くことにした。スペースは必要だが、父のいない時にこっそり俺も使ってみたい。
富士医療機（だったっけ？）のようなエアマッサージが出来ればいいのだが。
ただごつごつしたボールがゴロゴロ動き回るだけ。確かに痛い。これは使えない。
リサイクルに売ってしまったほうがいいかも。ほぼ新品だけど、二束三文だろうな。
父。
いまや、自分のしたいこと、してほしいことを伝えることが出来なくなっている。
もどかしいのか、怒り出す。母とけんかになる。
膝が思うように動かない。
立ち上がれず転んでしまうときもある。
どうしたらいいもんかな？
施設や病院に入れたら、どんどん悪くなっていくだろうし。
俺も仕事をしないわけにはいかない。
母が農作業や家事をしながら介護を続ける。
母が参ってしまいそうだ。
親不孝者だな。おれ。
